【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その70】奇跡の自主管理―西京極大門ハイツに学ぶ(その1)

■総会での合意形成―ほぼ100パーセントに近い賛成で可決

西京極大門ハイツ管理組合法人の理事長、佐藤芳雄さんの講演を聞く機会がありました。
京都市右京区にある190戸、築42年の自主管理マンションです。

管理費の月額は平均で5,774円、修繕積立金の月額は平均で9,577円です。
契約駐車場は74台ありますが、その収入は管理費にも修繕積立金にも充当せず、全て将来の立替等に備えるため、独自の「環境整備積立金」勘定に充当しています。

今期は4度目の大規模修繕工事を予定されているそうですが、十分な手元資金があり、借り入れや一時金の徴収は不要だそうです。
管理組合法人の理事の定員は、わずかに3名から5名(現在5名)となっており、上記の運営を少数の理事で実現しているのは驚くばかりです。

講演とパネルディスカッションがそれぞれ1時間半と限られた時間中で、私からすれば奇跡とも言える42年の管理組合運営の神髄に触れさせていただきました。
本コラムで数回にわたりご紹介させていただきたいと思います。

190戸のマンションの総会決議がほぼ100パーセント賛成なんてにわかには信じられませんでした。しかし、佐藤理事長が講演の中で公開された、過去の主要議題別の賛・否・保留の欄には驚愕の数字が並んでいました。

2005年4月の環境整備積立金制度導入の規約改正は賛成153、保留0、反対0です。直近の2017年11月の規約改正、職員給与細則制定では賛成175、保留0、反対0です。リストアップされたその間の13の重要議案で保留票はトータルでゼロ。一度だけ投じられた反対はただ1票だけです。

国の補助金を活用した外壁の外断熱化工事の議案に、反対票を投じた組合員が一人おられたそうです。反対理由も明確です。その組合員は、「補助金は当組合よりも、もっと困っている方に対して交付されるべきだと思います。」との意見を述べ、反対されたのだそうです。なんと見識の高い管理組合でしょうか。

佐藤理事長の口から出た合意形成に関する珠玉の言葉をいくつかを書き留めます。

「アンケートは取りません。みんなに意見を求めたところで、そんなに皆さんが考えているわけではありません。考えていない人の意見は聞かなくていいのです。大勢の意見を聞かなくても、覚悟のある人が中心になって考えをまとめることが大切です。」

「私(理事長)の携帯電話の番号はマンション住民の7割が知っています。」

「修繕委員会は設けていません。何か意見があるなら誰でも(理事会に)いらして下さい。」

「もめ事を強引に抑え込んだり異論がある事を強引に押し切ったりはしません。」

「総会で議論を戦わせることはしてはいけません。議論をするとお互いが『勝った』『負けた』の関係になります。理事会が組合員の意見に反論をしないよう心掛けています。」

普段からのコミュニティー活動の充実や、管理組合活動の実績と成果が住民の皆さんの強固な信頼関係を作り出しているからこそできる合意形成の極意なのだろうと推察しました。
ほぼ100パーセントの賛同を得るための総会運営ルールについても教えていただきました。以下、佐藤理事長から配布された当日の資料から引用します。

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【実情に即した総会運営ルールの確立】

標準管理規約に基づく総会運営をしている多くの管理組合では、総会前に出席通知書・委任状・議決権行使書を三点セットで配布し、総会議長は理事長が務めている。そして、どのマンションでも総会は委任状で成り立っていると云ってもよい状態で過半数が委任状提出者で占められていることは珍しくはない。

(当マンションでは)総会議長は「総会出席者の過半数の賛成を得て理事長が選任」することになっており、理事長以外の者が議長に選任される。

規約上、書面による議決権の行使(所謂「議決権行使書」)は認められてはいるが、管理組合が予め議決権行使書を作成しておらず、配布は出席通知書・委任状のみである。委任状には、代理人による議決権行使ができるように号室と指名記入欄が設けられ、欄外に「委任状に代理人名が記載されていない場合は、議長に一任されたものとみなします。総会での採決にあたっては、多数意見に従い議決権を議長により行使させていただくことになりますので、予めご了承ください。」という注記が添えられている。

この結果、総会は90%の参加であっても、内訳は本人出席が20%、代理人指名(の委任状)が5%、残りの65%は議長委任である。議長委任の65%の票の賛否は総会に出席した本人出席と代理人の計25%の多数意見に基づき行使されるため、総会に出席した人の多数意見が否決であれば理事会提案の議案は否決される。

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「議長=理事長」の場合、総会議案を提出した理事長が自ら提案した議案に反対票を投じるわけにはゆきませんね。そのため、この場合の議長委任は必ず賛成票となるのです。

この一般的な総会運営は、すべての総会議案をなるべく可決承認してもらうためには有効ですが、時として奇異な事態を引き起こしてしまいます。議案に対して理事会も気づかなかった、重大な意見が述べられ、出席者の多くがその意見に賛同して反対票を投じる場合です。こういった場合でも、議決権行使書で賛成票を投じた票は反対に覆ることはありません。「議長=理事長」であれば、議長への委任状は賛成票となり、議案は原案通り可決してしまうのです。

また、反対意見が続く中で、「議長=理事長」が、限られた制約時間の中で議論を打ち切り、採決に持ち込めば、強行採決だとの批判も出るでしょう。西京極大門ハイツでは、このような荒っぽい総会運営ができないことが、信頼感を生むもとになっているそうです。

管理規約の変更だけでも17回行われています。高圧一括受電や隣地の買収などの数々の特別決議も含め、総会の開催時間は殆ど2時間以内。質疑もさほど出ないそうです。普段から管理組合の動きが見えており、意思疎通していれば、総会の場でわざわざ手を挙げて質問する必要もないとのことです。

穏やかな物腰と風貌。訥々と話される説得力あるお話に、思わず引き込まれてしまいます。強引な運営で時に管理組合からは浮いた存在となってしまう理事長とは対極の運営手腕です。歴史を重ねる中で組合員の合意形成のための仕組み、ルール、行動規範を作り上げ、コミュニティー活動や管理組合活動を通じて相互理解を深めてゆく手法で、西京極大門ハイツは大きな成果を上げておらます。

次回は組合員の円滑な合意形成のバックボーンになっていると思われる、コミュニティー活動に対する取り組みについて触れたいと思います。(その2へつづく)

 

※suumo物件ライブラリーさんからお借りしました。http://suumo.jp/library/tf_26/sc_26108/to_0004152974/

マンション管理会社の役員という立場を離れてこの業界を眺めると、大企業の系列管理会社であっても決して管理組合にあからさまに語ることのできない、裏の一面を各社隠し持っていることがわかります。匿名だからこそ本音で、時にはきわどい発言も続けてゆき、マンション管理組合の運営がより実りあるものにできたらと思います。

2 thoughts to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その70】奇跡の自主管理―西京極大門ハイツに学ぶ(その1)”

  1. 管理会社が分譲段階からの情報など全部掌握、管理組合は御用組合。管理会社への委託費などに批判的な人は理事になれない。事実上は主権剥奪状態になっているマンションが多数。一戸建ての所有とは全く別次元の住居である点が社会に浸透していない。交通利便の高い首都圏などは特に、都心を離れた郊外の一戸建てが優れている。集合住宅は投資財としての属性が強く、リスクの高い財と言える。

    1. 管理会社の見えざる手に絡み取られていることに気づいていただきたいものです。

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