【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その76】奇跡の自主管理―西京極大門ハイツに学ぶ(最終回)

前回(その6)より

制度導入2年後の2008年には、隣接スーパーが廃業となり、管理組合は土地建物を買収。コミュニティホールとして総額1億4,356万円をかけて整備したのです。環境整備積立金運用細則には、同一ブロック内の隣地の買収予定範囲を規定しており、買収予算も確保しているため、理事会の決定と用地取得審査会の承認で、臨時総会を開催することなく短期間で買収を終えたそうです。

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私は佐藤理事長に「なぜマンションを買い取る必要があるのですか?」と尋ねました。

佐藤理事長は「マンションの値崩れ防止のためです。買い取った部屋は賃貸しして運用するのです。」とおっしゃいます。組合員が引っ越し等に伴いマンションを売却する際は、用地取得審査会に相談すると直ちに売却金額の査定が出るそうです。高値売却を狙う組合員はそれ以上の価格で街の不動産業者に仲介を依頼すればよいのですが、下値を管理組合が査定し、買取りまでしてくれるのですから、マンションの値崩れなどありえませんね。

また、売却に際しては、管理組合がそれぞれの住戸用に、専用の販売パンフレット兼重要事項説明書を作成しているとのことです。マンション全体の設備の状況や管理組合の運営状況まで記載されたパンフレットを、マンションの購入を検討する方にお渡しすることで、西京極大門ハイツの管理組合活動とコミュニティ活動に共感する方にこそ、新たな組合員になってもらいたいとの管理組合からの熱いメッセージが伝わります。

明文化された長期ビジョンを組合員が共有し、共有できる組合員に世代を超えて住み繋がれる仕組みを実践しておられます。売却時の資産価値維持や組合員が住み続けるためのリバースモーゲージにまで思いを致す管理組合運営です。

講演の当初は、恥ずかしながら佐藤理事長のお話に私は懐疑的でした。

建て替えは建て替え必要時期に至った時点で、組合員の5分の4で決すべきことで、建て替え決議前の管理組合が建て替えのための用地買収や資金確保をすることは違法ではないか。
用地買収や区分所有権の買取りを、規約を整備し予算を組んでいるからと言って総会決議なしで決していい訳がない。
これだけのことを全員合意に近い決議で決するのだから、とんでもない専横的な理事長がいるに違いない。…エトセトラです。

 

佐藤理事長のお話が終わり、様々な疑念や問題点は全て解消しました。

法律の定め、規約の決議などの組合員の合意形成に関する手順や規定に反する虞は、事実上全員一致の組合運営を実践する西京極大門ハイツにおいては(反対者がいないのだから)何の問題も生じないと理解できました。また、評議員を通じた役員の選任システムや総会出席者の多数意見に議長が委任状を行使する仕組みで、専横的な運営など入り込めないこともよく分かりました。このような管理組合があるとは思いもしなかった、自身の不明を恥じ入った次第です。

40年以上の歴史にもまれた西京極大門ハイツの組合運営はこれからも進化し続けるに違いないと思います。奇跡の管理組合運営はマンションの理想郷目指す取り組みだと思います。今回勉強の機会をいただいたことに感謝申し上げますと共に、佐藤理事長の今後のご活躍と、西京極大門ハイツ管理組合の益々のご発展を祈念致します。

最後に佐藤理事長の資料を再度引用して、本コラムでの西京極大門ハイツの特集を終わりといたします。

住み繋がれるマンションを目指して

日本の産業構造の変化に伴って分譲マンションの購入層で家業を持っている人は少ない。多くは勤労層である。分譲マンションは、構造的に増築は不可能なため、元々、家族構成の変化に対応して居住空間を変えることはできない。親族間で世代交代の循環が行われる三世代同居に向いていない建物と云える。居住者・区分所有者の世代交代が行われ住み繋がれるマンションにするためには、親族間ではなく赤の他人の第三者に購入してもらえる魅力あるマンションづくりを管理組合はしなければならない。(中略)

分譲マンションは、分譲時には同じような状況にある多くの子育て世代が購入し、子供たちの声がにぎやかで子供繋がりでコミュニティ活動も活発な時期がある。20年ほどたつと子供たちも社会人になって巣立って行き、子供たちの声も少なくなり、分譲時に購入した人たちの年代も50代~60代に到達。築後30年を経過すると子供のいる家も珍しくなり最初の購入層の年齢も高くなって配偶者が欠け一人暮らし世帯が増えてくる。高齢者層が転出した後の物件は、相対的に売買価格も低下しており、静かでフラットな環境を求めて高齢者層が購入してきて高齢者から高齢者へ、老いの連環が始まる。(中略)

区分所有者と居住者が一致していることが多いファミリータイプのマンションでは、経年でほぼ同じ道筋をたどる。こうしてファミリータイプの分譲マンションでは居住者・区分所有者の高齢化が進みがちだ。
子供たちの声のあふれる今の姿は、分譲マンションのそういった特質に気づいた管理組合の様々な取り組みの延長線上にある。』

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