【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その89】総会開催には印鑑証明を要求する第三者管理者

第三者管理者管理に対する取り組み

 

管理会社の多くが、いまだ第三者管理者管理の管理者に就任することには否定的です。想像するに、管理会社が管理者に就任し、利益相反行為だと批判されることを恐れているのではないでしょうか。管理組合や世間から批判を受けることが避けられないと考え、これを解決する術を持ち合わせていないからでしょう。

多くのマンション管理会社が第三者管理者管理に踏み込むことをためらう一方、マンション管理士の団体である一般社団法人日本マンション管理士会連合会(日管連)ではソリューションを世に問うておられます。日管連の認定するマンション管理士がマンションの理事や管理者に就任した場合、横領や詐欺などの不正行為で管理組合に損害を与えた場合に備えて管理組合損害補償金給付制度を設けているのです。
日管連の保管・管理する印鑑に管理組合預金の届出印を変更することと、出納業務を管理会社に委託していることが前提だそうです。マンション管理士の押印依頼を受けて、日管連が銀行の払い出し票に押印し、管理会社が支払いを実行する流れです。

日管連の取り組みは時代の要請に応じた先取の取り組みと思います。ただし、一回の不正に対して保証の上限額は1億円とのことですから、この制度が有効に機能するのは小規模なマンションに限られるのが残念です。日管連がどれほどの内部資産を原資としてこの制度を運用しているのかは承知していませんが、マンション管理士が故意による不正を働くとすれば、その時は特定の管理組合だけが被害を受けるとは考えにくいでしょう。当該マンション管理士が管理者や理事を担当する全てのマンションで、同時多発的に被害が生じると考えた方が良いと思います。いくら会員のマンション管理士に所定の講習を行い、試験を行ったとしても、技量が高い管理士だからといって犯罪を引き起こすリスクが低いとは一概に言えないと思うのです。

不法行為を担保する損害補償金給付制度を有効に運用することは、大変な困難とリスクがあるのではないでしょうか。想定している以上の過大な不法行為による損害が、複数の管理士が担当する多くの管理組合で同時期に生じた場合、不足する保証金を傘下のマンション管理士から追加徴収するなど現実には不可能と思うのです。

 

管理会社による第三者管理者管理の利益相反事例

 

このたび、第三社管理者管理の取り組みをいろいろ調べている中で、積極的に第三者管理者管理に取り組む、大手独立系の管理会社が定めた管理規約や総会議事録を確認する機会がありました。これらを拝見し、ここまで厚顔無恥に堂々と利益相反行為を行うものかと大変驚いた次第です。

管理規約には管理会社名を明記したうえで「管理会社が管理者を務める」とあります。これを変更するには規約変更の集会決議が必要なのです。そして、そのための集会を組合員が請求する場合は、組合員と区分所有者のそれぞれ5分の1の同意を取り付ける必要があるのですが、なんと「請求手続きにおいて、管理者は請求者全員の押印(印鑑証明付き実印による)により、確認を行わなければならない。当該請求に伴う総会における意思表示についても同様とする。」とあるのです。管理者を解任する集会開いてくださいと管理者に要請する意思表示においても、招集された集会における議決権行使書や委任状の提出においてもすべて印鑑証明付きの実印が必要と規定しているのです。

管理会社が管理者や管理委託業務を解除されないよう、ここまであからさまな規約の定めを設けてガードしているのです。これに対して、管理者=管理会社が自ら招集する定期総会や臨時総会においてはこのような規定がないことを考えれば、いかに厚顔無恥で独善的な考えかお分かりいただけるでしょう。ここまでしても守りたい管理者の立場とは何なのでしょう。

この管理会社が第三者管理者を務める直近の集会の議事録を見るとその謎が解けます。

区分所有者は11名中6名出席です。そのすべてが議決権行使書で賛成の議決権を行使しています。つまり誰も実際に集会に出向いてはいないのです。管理者である管理会社の職員だけが出席して議事を進行し、全会一致で異議無くすべての議案が承認されたと議事録には記載されています。

予算、決算の承認以外の議題は、誘導灯の取り換え工事、非常灯バッテリー交換工事、電子ブレーカー設置工事、蓄熱式暖房機設置工事です。そのすべての工事において工事の発注先は管理会社の関連会社でした。相見積もりもなく管理会社系列の工事会社に決め打ちの議題です。管理者の権限で自由に議案を上程し、組合員の無関心をいいことに最大限の利益を管理会社が得ているのです。これからも上記の管理規約に守られて第三者管理者であり続けることでしょう。そして管理会社として最大の利益をもたらすために、忠実に管理者業務を継続することでしょう。

議事録の末尾には、その他の報告事項として以下の記述が続きます。

「2018年7月に長期修繕計画を作成したところ、現行の修繕積立金で算定した場合、次回の大規模修繕工事の実施が見込まれる2029年においては、修繕積立金の累計額が3700万円程度不足すると見込まれます。
将来に向けて、当マンションを適切に維持・保全してゆくためには、必要となる修繕費用を担保することが必要であることから、修繕積立金のシミュレーションを行いましたので、組合員の皆様のご意見を確認したうえで、修繕積立金の改定について検討する予定です。」

「(わずか11名の組合員で)3700万円を追加負担することを検討してほしい。」と管理会社=管理者が予告しているのです。このマンションでは前回の大規模修繕工事も管理会社の系列会社が受注しているのでした。
こうして考えると第三者管理者管理に躊躇する管理会社がなんだか誠実な会社に映りますね。管理組合よりも自社の利益を第一に考え、モラルやコンプライアンス意識が欠如した、こうした管理会社が進める第三者管理者管理を許してはなりません。これを排除するためにも、前回コラムの私の提言は有益と思います。

 

One thought to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その89】総会開催には印鑑証明を要求する第三者管理者”

  1.  このことは、全員同意が必要な一括受電サービスに多くの例があります。
     全員同意取り付けで建て替えを実現した経験から言えば、1枚の図面(公図か地籍図)に区分所有者全員の自署、実印の押印、印鑑証明を求められ、途方に暮れた経験があります。
     デベが協力してくれたおかげで、実現できましたが、協力がなければ全員同意の建て替えは実現しませんでした。 同様に、管理規約に規約が在る以上、「悪法でも法」ですから守らないといけません。 
     管理会社が管理者を断る理由は簡単です。
     管理者の責任の重大さを知っているからです。
     管理会社が管理者になると、多くの区分所有者が、管理者相手の訴訟を提起する恐れがあります。
     それが管理会社の評判を下げ、受託戸数の減少につながり、管理会社の経営が成り立たなくなります。

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