【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その90】管理組合も業者も合意形成にお金がかかる(その1)エレベーター

「エレベーターの非常用バッテリーが劣化したので交換が必要です。」と、保守会社が見積もりを出してきました。

停電で急に止まった場合でも、最寄りの階に自動的に移動して扉を開くための非常用バッテリーです。見積もりが妥当なのか知り合いの電気工事店に見に来てもらい費用を見積もってもらいましたが、エレベーター保守会社の金額と大差はありませんでした。
保守会社を理事会に呼んで説明を受けましたが、今現在バッテリーは、非常時に機能しないほど劣化しているわけではないそうです。

「予防的に交換するにしても早すぎるのではないか」と発言する理事もいます。今年の管理費の予備費で交換するのか、来年度に修繕積立金から支出するのか…今期は小修繕のための管理費支出が色々あるため議論は持ち越しとなりました。

エレベーターの保守契約にはPOG(パーツ、オイル、グリスの略) とフルメンテナンスの二種類があります。

POG契約はヒューズや籠内のランプなど日常的な消耗品、オイルの補充・交換、グリスの注入以外の部品の交換は別料金です。フルメンテナンスは劣化した運行上必要な部品(制御基板、昇降ロープなど)の交換や修理を適正な時期に保守会社の負担で行い、エレベーターの機能を常に維持する、いわば性能保証契約です。(エレベーターの籠本体、各階の乗降口の枠、押し釦や籠の内装などの外観意匠部分は別料金です)

こちらの管理組合はメーカー系の保守会社とPOG契約を続けておられます。
フルメンテナンス契約にすればこのような議論は無くなるとの考えから、途中でフルメンテナンスに切り替える相談をしたそうですが、保守会社は単純には応じてくれません。相当な費用をかけて整備を行った後であれば可能との回答だったそうです。

独立系の保守会社数社にも見積もり依頼を行いましたが、POGは全社応じてくれるものの、多くの業者はフルメンテナンスには難色を示したそうです。結局、管理組合は独立系でフルメンテナンスを提案してくれた会社とフルメンテナンス契約を締結しました。(バッテリーは別途交換費用を払って交換しました。)

その結果、なんと今までのメーカー系のPOG料金よりも割安になりました。

メーカー系保守会社の本音は、できるだけフルメンテナンスで契約をしたいのです。理由はたぶん、部品の交換を独自の判断で可能な限り先延ばしにすればするほど儲かるからだと思います。やむなくPOGで契約している場合は、早め早めに(不必要と思えるほどに)部品の交換を提案して利益を得たいと考えるでしょう。

一方、独立系の保守会社の本音はPOGで契約したいのです。メーカーから割高な部品の調達をせざるを得ない場合でも、時価で管理組合に請求できるためリスクがありません。早め早めに部品交換を提案しても、部品代はメーカーの売り上げですから、無理に部品交換をする必要もありません。一方、独立系保守会社がフルメンテナンスで契約する場合は、部品調達リスクを自社で負うことになりますね。

エレベーターのメーカー各社は、以前は「独立系保守会社に部品を売らない」という嫌がらせを行っていました。このような行為は、訴訟で独占禁止法違反が確定してからは解消されましたが、今は部品の定価販売と部品の値上げで、独立系保守会社を困らせているのです。必要となる交換の調達に思わぬ費用や長い納期がかかるリスクを避けるため、フルメンテナンス契約には積極的になれないのだと思います。

また、エレベーターのメーカーはフルメンテナンスで契約していようがいまいが、突然に保守サービスの打ち切りの機種を発表する場合があります。数年前に、大手エレベーターメーカー各社は油圧式エレベーターの保守を打ち切り、部品の供給も終了しました。メーカーは一斉に新型機種へのリニューアル工事を提案したのです。

独立系各社はメーカーの保守打ち切り、部品提供中止の措置に対抗して、中古部品(リニューアル工事で撤去した同型エレベーターの部品を保管しているのです。)を取り付けて延命を図ったり、提供停止となった部品を独自に加工・製作して修理したりと様々な工夫をしています。

POGとフルメンテナンスの差異は、金額の差だけで論じるべきではないと思います。
POGでは、冒頭お話しした非常用バッテリーの取り換え工事など、将来発生する劣化した部品の交換を、理事会で都度審議しなくてはなりません。時には保守業者を理事会に呼び説明をしてもらったり、相見積もりを採ったり、価格交渉をしたり・・・。保守業者も大変です。見積もりを出し、理事会に説明に行ったとしても、すぐには結論が出ず、そのうち運行に支障が出るような事態になればクレームとなり、緊急出動で頻繁に呼び出される・・・。多大な手間と時間を要します。

このような合意形成にかかわる時間と手間を金額に置き換えて考えると、管理組合にとっても保守会社にとってもフルメンテナンスは優れた契約と評価できるのではないでしょうか。個人所有ビルのエレベーターならば、ビルのオーナーがエレベーター保守会社と見積もり交渉を行い、即断即決することも可能で、合意形成のための時間とコストは無視できるかもしれませんが、分譲マンションの理事会ではこうはいきません。こういった事情を含めてエレベーターの契約形態について検討いただければと思います。

マンション管理会社の役員という立場を離れてこの業界を眺めると、大企業の系列管理会社であっても決して管理組合にあからさまに語ることのできない、裏の一面を各社隠し持っていることがわかります。匿名だからこそ本音で、時にはきわどい発言も続けてゆき、マンション管理組合の運営がより実りあるものにできたらと思います。

One thought to “【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その90】管理組合も業者も合意形成にお金がかかる(その1)エレベーター”

  1.  エレベーターは機能単独で考えるか、エレベーターと関連する設備まで考えるかで考え方が変わります。 機能維持だけならPOGで良いと思いますが、遠隔監視やセキュリティまで考えると、フルメンテナンスしか選択肢がないのでは思います。
     5階くらいまでのマンションで、足腰が丈夫な方が多い場合は、半日常的に階段を使いますから、コミュニティ形成が出来ていれば、エレベーターが使えなくても文句は出にくいと思います。
     大阪府北部地震の際、近隣マンションでは1日半ほど止まりました。 当マンションは日立で営業所も近く、半日程度の停止で済みました。
     セキュリティや災害時の復旧も考えないといけないので、費用だけで考えるのは難しいですね。
     知り合いに独立系エレベーター会社の人がいますので、機会があれば聞いて勉強します。

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