皆さん「三方良し」という言葉お聞きになったことありますか?
デジタル大辞泉によると
『「三方良し」とは、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということ。近江商人の心得をいったもの。』
とあります。商いとは関係者皆が満足すべきであるとの、不変、普遍の真理だと思います。
売り手の利益と買い手の利益が両立するためには嘘偽りのない取引であることが条件です。やりがいや生きがいは社会の役に立っているからこそ実感できるものだと思います。こうでなくては、社員のモチベーションは続きませんから仕事を長くは続けられませんし、社員が育たなければ会社も成長は望めません。
これらが実現できるからこそ正業つまり堅気の仕事であり、これが実現できないとしたら、その仕事は賎業であり裏稼業とでもいうべきものです。
では、マンション管理の業界で、管理組合の皆さんに喜ばれるよう業務に励み、管理会社のもうけも上がり(わずかながらでも給料が上がり)、さらに仕事を通じて社会に貢献できていると実感している管理会社の職員がいかほどいるのでしょうか…。
管理の現場では、管理組合をうまくあしらって、管理会社の売り上げと利益を最大とした社員が会社から最大の評価を得て出世してゆきます。
___理事会から、「今回の工事は三社以上の見積もりを取って最安値の業者に発注します。」と言われれば、気心の知れた業者に自社より割高の見積書を出すようお願いする管理会社の職員。
___理事会から、「管理会社には今回の工事は発注しませんよ。」と言われれば、見積もり業者に割高の見積もりを作成させて、差額は管理会社にキックバックさせる管理会社の職員。
___保険の対象となる建物の破損があれば、すぐさま管理会社にすべてお任せ下さいと、割高の見積もりを保険会社にぶつけて、最大の査定金額を獲得し、査定金額と実際の下請け工事会社の見積もり金額の差額をちゃっかり儲ける管理会社の職員。
___今期の売り上げ目標が達成できていないと会社からはっぱをかけられ、「10年の防水保証が今年きれますから防水工事をやり直しましょう。」と傷みも生じていない防水の工事を提案し、「大規模修繕工事は消費税が上がる前に今期前倒しで発注しましょう。」などと強引に工事売り上げに結びつけようとする管理会社の職員。
___こんな理不尽かつ不誠実な仕儀を会社から強いられているのに、これら強引な対応が管理組合の不興を買って、いざ管理委託契約の解約ともなれば、とたんに担当者として対応がなっていないと責任を追及されたり、時には降格、減俸の処分が下る管理会社の職員。
これでは管理会社にとって都合のいい社員は育っても、世の中にとって必要な人材が育つわけがないですね。
大手管理会社の多くは上場企業であったり、上場企業の子会社であったりです。彼らは証券取引所の審査においてコンプライアンスが厳格に求められているはずなのですが‥‥。
コンプライアンスは日本語では法令順守と訳されますが、これがそもそも間違いなのだと思います。
管理会社各社は、管理組合の資金の横領や詐欺を働かなければ、そしてマンション管理適正化法さえ守っていればコンプライアンスを全うできていると勘違いしていませんか?
損害保険の業界では、損害保険募集人のテキストの中で、「コンプライアンスには法令をはじめ、保険会社の諸規定、社会規範等も含まれます。」と踏み込んだ解釈を示しています。
コンプライアンスの基本姿勢は「しなければならないと決められていないが、行った方が良いと思われることを積極的に行い、禁止されていないが行わない方が良いと思われることは厳に慎む」という基本的な姿勢を身につけなければならないと説いています。プロとしての高い志と高い倫理観に基づく顧客との信頼関係が重要とされています。
お客様に裏表のない姿勢で接することができるならば、管理会社の職員はどれほど晴れがましい思いで職務に励むことができるでしょう。
三方良しはコンプライアンスに通じ、洋の東西を問わず不変、普遍の真理だと改めて思います。
近江商人の教えがそして広い意味でのコンプライアンスが管理会社においても常識となるよう、管理組合、管理会社双方がお互いを理解し歩み寄って、真摯に改革を進めないと、管理業界はいつまでたっても正業にはなりえないものと危惧いたします。