【図面を取り戻せ!~大規模修繕後の戦い】16.前期の理事たち

今回の理事会に先立って、妻たちは、前期に監事を引き受けていたA美さんから、話を聞いていたそうなのだ。

「大規模修繕の予算は7,668万円。それに予備費が400万円となってました。でも、B建築設計のもともとの見積もりでは、予備費を使わなくても十分だろうってことやったんです。」

大規模修繕工事のうち、タイルや下地の工事はもともと実数精算、つまり、工事が終わってから、費用を算出することになっていた。なんとなれば、足場をかけずに行われる事前の見積もりでは、実際に修理が必要な個所を正確に把握するのはムリであるので、おおよその予算しか出せない。最終的な金額については、すべての補修が終わってから増減を計算するしかないのだ。監査にあたったB建築設計の担当者は、ほかの工事部位との調整も行い、追加費用については、できるだけ発生させないようにすると、当初は話していたそうなのだ。

しかしA美さんによると、
「工事の終盤になって、急にタイルの補修で費用がオーバーするって話がでてきて…。それはあかんやん…って思ったから、あたし、『住民説明会を開きましょう』って提案したんですけど。」

話が理事会内で進められていたため、僕たち住民は、状況を詳しくは把握できていなかった。しかし、そこまで巨額の追加費用が発生することについては、確かに説明会を開いてもらいたかった。B建築設計の見積もりの甘さに問題がなかったかも、確かめる必要があったのではないか。実際、A美さんのもとには、話を漏れ聞いた住民からの「どうなってるの」「本当に必要な工事なのか、説明が聞きたい」との声も寄せられていたらしい。

「そやのに、あのT村理事長が…。」
出た、例の胡散臭い前期理事長だ。

「『住民に説明する必要なんかない!理事長権限で、説明会は開かへん!』って、あたし、理事全員の前で怒鳴られたんですよ!おしっこ、ちびりそうになったわ!」

おしっこちびりそう…は冗談としても、満席のなかで声を荒らげられ、さすがのA美さんも反論しにくい雰囲気だったという。

結局は、A美さんが提案した住民説明会は開催されないまま、B建築設計が求めていた300万円余の追加費用が認められることになったそうだ。
しかも、この300万円分の施工が正しく行われたかの根拠を示す「タイルの図面」は、未だに提出されていない。

A美さんの話を聞いていた妻は、理事会の席で、前期の理事会運営についてもストレートに質問をぶつけたらしい。

「T村前理事長は、なぜそこまで説明会に反対しはったんでしょうか。」

もっともな疑問だ。しかし、今期の監事であり前期は理事長を務めたT村氏は、例によって欠席。前期の副理事長で今期理事長を務めるK山理事長が代わりに答えたそうなのだが…。

『予備費の裁量権は理事会にあるんやし、いちいち住民の声を聞いていても時間がかかると考えたので。』って。そんなんで300万円、してやられたんやわ。『上から目線で申し訳ありませんでした』って、いちおうは謝らはったけど。」

K山理事長の話になると、最近の妻は、まったくもって容赦ない。ビールの酔いも加わって、がぜん厳しい口調になる。

「あたしたち住民って、基本は素人やんか、タイルの工事が実数精算って言われても、なんのことか分からへんやん。」

妻の話では、建築関係の仕事をしているだけに、K山理事長は、そういった事情については多少の知見があったようなのだ。

「それやったらさ、みんなに分かるように説明してくれはったらよかったのに、業者さんとK山さんとで、話を進めてしまったみたい。逆に全員が素人やったら、業者さんも、もうちょっと分かりやすく説明しはったんやろうけど…。」

なまじK山理事長が専門知識を備えていたことが、この場合では裏目に出てしまったようだ。

「しかも、理事のメンバーも『K山さんに任せといたら大丈夫』って雰囲気だったらしくて。」

不審に思ったA美さんが途中で口を挟もうとしても、時、既に遅し。追加の費用は、B建築設計とC技研が主導する通り、認められてしまったのだという。大規模修繕を追及することに、K山理事長が抵抗を示していたのは、そういったいきさつを、表沙汰にされたくないとの思惑もあったのかもしれない。

「ほんまあかんわ、K山さん。最初のころは、もうちょっと期待してたのに。」
空になったグラスを手に、妻はため息をつく。

「せやけどさ、あたしら、前期の理事がしたことを、責めるとか、責任取らせるとかとかって、そんなつもりはないねんわ。」

理事会の後で、I子さん、Y子さんと妻、それにA美さんや口コミで集まった住民も加え、じっくり話し合ったらしい。少しづつではあるが、妻たちは、マンション内に、話ができるメンバーを増やしていっている。

「B建築設計、S社、C技研の責任は、もちろん追及する。でも、前期理事がやったことの責任は問わない。今後の教訓として、記録に留めるだけにする。」
それが、理事会の運営についての、彼女たちの出した結論だったらしい。

「それにね、K山さんがおらへんかったら、タイルの図面がないってこと自体、分からへんまま、そのままになってたかもしれへんねんやし。」

この春まで、大阪市内のマンション(50戸)で管理組合の副理事長をしていました。昨年の理事の引き継ぎ直後に、その前年に行われた大規模修繕の竣工書類のうち、タイルの補修図面が提出されていなかったことが判明。施工会社に「ゴンドラを掛けての図面復元」を確約させるまでのやりとりや、その間に判明した様々な問題について、オットの目を借りてお伝えしたいと思います。

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