【ある「元」大手管理会社取締役つぶやき その64】自動火災報知機は15年ごとに更新する?

築18年の大型マンションで、管理会社から、自動火災報知設備の更新の見積り提案が理事会に出てきました。約1500万円かけて自動火災報知機受信盤や共用部分の感知器をすべて交換する提案です。

■管理会社
過去2年間で、誤発報が数回発生いたしました。原因は自動火災中継機器類の経年劣化によるもので、緊急に交換いたしました。また、管理事務室に設置されている自動火災報知設備の受信盤についても、2000年製造の物で今後は部品が供給不可となってしまうことから、火災に対する安全性を確保するため、長期修繕計画では築20年~25年に計画されておりますが、前倒しで設備の交換を行います。

☆理事会
管理室内の自動火災報知機受信盤は外観上傷みもないし、管理員に聞いても過去故障したことはないと言ってましたが?

■管理会社
弊社においては、日本火災報知器工業会よりの指針に基づき、15年を一つの更新目安としております。 但し、部品調達において、電子部品メーカーよりの供給が断たれた場合は、補修部品の供給が不可となりますので、 15年より早く更新提案をさせて頂く場合があります。

☆理事会
受信盤を本体ごと全部取り換えなくても中の基盤など主要部品だけ交換すればいいのではないですか。

■管理会社
本製品は2015年に製造が中止され、それ以後部品の在庫管理の対象から外れています。自動火災報知機が故障した場合、既に修繕対応が出来ない状況となっています。受信盤の製作には通常75日いただいており、代替機はない状況です。その間は未警戒となり、万が一の事故時には、自動で火災を報知する事が出来なくなってしまいます。

☆理事会
それでは自動火災報知機が故障すれば修理不能で、一大事になる恐れがあるということを3年間放置して今回初めて提案してきたということですか?

■管理会社
2015年の総会で受信機が製造中止となることは報告したはずですが…

☆理事会
今回ご説明があったような具体的な警告はなかったですよ。こっちは素人なんだから、具体的にリスクを説明してもらわないとわかりませんよ。
御社グループの本社が入る新宿の高層ビルは築40年程度だと思いますが、15年ごとに自動火災報知機を交換しているのですか。

■管理会社
後日調査して回答します。(調査の結果は、現在当該ビルはリートに譲渡しているため、回答は差し控えるというものでした。)

☆理事会
共用部分の300個余りの感知器を全部交換するのはなぜですか。半年ごとに鳴動試験をしているではないですか。問題があれば都度交換すればいいのでは?

■管理会社
感知器の交換につきましては、都度交換の対応も可能です。感知器の交換推奨年数については、10~15 年となります。但し、壊れてからの交換が前提となると、都度故障鳴動する事になってしまいます。また、都度労務費が発生し、結果全体更新時の費用よりも負担増になると思われます。

☆理事会
感知器は取り換え工事といった大げさなものではなく、管球などと同様に簡単に交換できるではないですか。直近では感知器の全数量何個のうち何個の感知器が故障鳴動して取り換えたのですか。

■管理会社
過去2年間、共用部分の330個の感知器のうち3回故障による鳴動があり交換しています。

☆理事会
年に0.5パーセントの不良が出る恐れがあるので全部を新品に交換しましょうとおっしゃるのですね???

日本火災報知機工業会の指針を錦の御旗にして設備全体の更新を迫る管理会社__。

自社グループがかつて保有し、当該管理会社が現在も管理しているビルの自動火災報知機の更新実績については口をつぐむ管理会社__。

めったに故障しない感知器も全部新品に取り換えることを勧める管理会社__。

部品を確保しておけば更新するまでもないのではと理事会が提案した時「既に交換部品は製造終了で在庫も無い。」と平然と答える管理会社__。

一方の理事会は、今後の長期修繕計画の不足資金が7億円にも達することを危惧してその対策を真剣に模索しているのです。

・長期修繕計画に予定されている。
・業界団体の指針で交換時期に来ている。
・万一故障したときは理事会の責任問題となる。

これらを理由に管理会社は当然のごとく設備の更新や建物の全面改修を提案してきます。長期修繕計画は10年以上のスパンで将来の修繕時期と工事を予測したものです。誰も正確にそんな先のことまで予見できるわけはありません。
業界団体の指針や推奨は、業界の利益のために、非常識でない程度に早め早めに設備を更新したいと願う、営利企業の業界団体の販促ハンドブックです。

万一故障したときは重大な影響があると警告する管理会社自身が、自ら奨励する交換時期を3年も過ぎて設備の更新を提案してるのです。その間重大な事態となった場合は管理会社が理事会に代わって責任を負う覚悟だったとでもいうのでしょうか。

自社が管理し入居している元自社ビルの設備の更新時期を開示できないという管理会社の発言を聞いた理事会は皆、開示できない本当の理由を理解したのです。どこかのアメフトチームの監督とコーチの記者会見を見るような気分になったことでしょう。

長期修繕計画が自社の売り上げ計画であり利益計画となっているからこそ、このような提案が堂々とまかり通るのでしょう。

長期修繕計画を参考にしつつ、建物や設備の現状を把握し部分補修、部品交換、分解整備などの対応ができないかを精査して管理組合に提案してほしいものです。安易に全面修理や設備更新を提案するのではなく、管理組合に寄り添った提案を心掛けてほしいと理事会は管理会社に要請しました。管理会社は果たして真摯に受け止め改善してくれるでしょうか…。

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