第41回の定期総会を迎えた都心のマンションでの話です。
年配の組合員の方から、「そろそろマンションの建て替えについて検討してはどうか。」との意見が出ました。都心の主要駅から徒歩10分余りの好立地。幹線道路から少し入った閑静な住宅適地です。
こちらのマンションは旧泰然としたセントラル空調を採用しており、多額の費用を投じて冷暖房設備の更新をするか個別空調に変更するかといった課題に直面しています。また、床下を貫通している給排水管からの漏水が頻発するなどの問題も抱えています。
「老朽化した設備の改修には多額の費用がかかりすぎる。」
「いっそ建て替えてはどうか。」
「近隣の建物と一体で大規模開発はできないだろうか。」
「東京都に相談すれば地域一帯を再開発してくれるのではないか。」
様々な意見や要望が出てきました。
さて、「老朽化したマンションだから建て替えを検討する」という一見当たり前の議論に一歩踏み込んでみると、克服すべき大変な課題が見えてきます。
みなさんは、住宅ローンは全額返済済みで、マンションを担保の借り入れは無いのでしょうか。住宅ローンをはじめとする不動産担保ローンとはその全額を返済しないことには不動産を転売したり、取り壊したりはできないのです。マンションの敷地は皆さんの共有ですが、通常マンションを建て替えるには以下の費用が発生します。
- 既存マンションの解体費
- 新築マンションの設計費
- 新築マンションの建設費
- 解体から新築マンション完成まで通常2~3年の引っ越しと仮住まいの費用
そしてこれらの費用の一部は、新築マンションを担保に借り入れをすることが出来ますが、建て替えにあたっては各自で相当の手元資金が必要となるのは明らかです。
こちらのマンションでは、組合員には新築当初から住まいする高齢世帯と、都心の魅力ある中古マンションを買い求めたファミリー層が混在しています。当然住宅ローンを抱える若い世代の組合員からは「住宅ローンを二重負担することはできない。」との意見が出ます。高齢世帯の中には年金暮らしの方もおり、「多額のローンを負ってまで建て替えに賛同できない。」との意見が出ます。
建て替え決議を行うには組合員総数と議決権総数のそれぞれ5分の4の多数を要します。
老朽マンションの建て替えとは、現在のお隣近所とのコミュニティーを維持して、この地で再び新築マンションに末永く住まう(不同意の方は資産売却をしていただく)ことに合意する組合員が8割を超えた場合にのみ可能な選択肢なのです。
さらに難題は、この8割合意のための道筋に関する勉強(コンサルタントへの委託等)、新築計画の策定、建て替え事業にかかる費用の算定、組合員各自の資金負担算定、組合員各自の資金調達、設計・施工会社の選定等を議論するための時間と労力たるや並大抵のものではないことです。
大変稀なことですが、以下のようなケースであれば、負担を大幅に軽減した建て替えが可能となる場合があります。
- 敷地面積に対して許容される建物の総床面積の上限値(容積率と呼びます。敷地面積の何パーセントまで許容できるといった数値が地域ごとに定められています。)が、現状のマンションの総床面積を大きく上回っている。(容積が余っているといいます。余った面積相当の部屋を新築マンションとして売却することで、建て替えのための事業費を軽減できる可能性があります。)
- 幹線道路や駅前など超好立地に面している敷地に連なる街区に立地しており、街区を一体開発するための都市計画決定がなされている。この場合は、行政又は再開発組合が主導で街区全体を再開発することとなりますので、マンションの組合員は再開発事業の構成員として事業に参加することとなります。
マンションの修繕は総会の普通決議で決します。今ある共有財産を機能保持するための合意形成と、新たな不動産開発事業を組合員で担う建て替え決議との間には、とんでもないギャップがあるのです。
まずは組合員の今後10年20年を見据えた生活設計をどう考えるのかを議論することから始まると思います。同じ顔触れで同じ場所に住み続けることへの思い、個々の組合員の経済的な問題や家族の問題まで含めた合意が必要となりそうです。
建物をこれ以上維持保全するには過分の費用が掛かるとなった場合は、マンションを解体して敷地を処分し、組合員が土地持ち分に応じた売却代金をそれぞれ手にして区分所有関係を解消する。これもマンションの立派な末期と覚悟しなくてはならないと思います。
建て替え経験から、等価交換による建て替えは、お勧めできません。
耐震不足なら、建て替えや敷地売却の理由が立ちますから、いったん売却して再取得が禍根を残しません。
なお、法令による多数決での建て替えや除却が可能でも、まずは全員同意を目指し、建て替えや敷地売却による再取得を目指しましょう。
建て替えが失敗すると、感情的なしこりが残り、建て替え推進派が、反対派に代わる恐れがあります。
ご経験に基づく貴重なご意見ありがとうございます。個人の判断で家を建て替えるのであれば、スケジュールを見通しての意思決定が可能ですが、出口までの時間が見えない中、合意の過程で修復できない亀裂としこりが生じてしまうこともあるのでしょうね。
一戸建て自宅除去の経験もあります。 今はお買い上げいただいた方の駐車場になっています。
利便性が増したので、隣家の方とは、挨拶を欠かしません。